• 静岡県沼津市のバイク特注カスタムパーツ製作工場。GPZ400Rパーツ販売中。

4ポット/4枚パッドキャリパーについて

弊社ではGPZ400R用キャリパーブラケットキットを販売しておりまして、私もこのキットを用いてブレンボ4ポットキャリパーをGPZに装着しています。これはとてもいいキャリパーですね。ノーマルの1ポットも全っ然効かないということは無いのですが、操作フィーリングの良さ、ブレーキをかけるのが楽しくなる感じはこのブレンボキャリパーならではのものがあると思います。

ところでブレンボにはストリート用のキャリパーが何種類もあって、その中に4ポット/4枚パッドというのがあります(通称ブレンボ4枚パッド)。うちではこれをスルーして旧いタイプの異径4ポット/2枚パッド、取付ピッチ40mmの使用を前提とするブラケットキットを商品化したのですが、ところで皆さんは4枚パッドがなんで4枚パッドになっているのかご存じでしょうか? 専門誌でもちゃんと説明されて来なかったように私は思うので、「今さら」感はあるものの、今回は不肖ワタクシがこの解説を試みよう、という趣向で参ります。どうぞお付き合いを。

その前にドラムブレーキの「リーディング効果」とか「セルフサーボ効果」とか呼ばれている効果について説明しなければなりません。これはドラムブレーキでブレーキを掛けると、回転するドラムに引っ張り込まれる形でリーディング側のシューが激しくドラム内面に食い込み、自ずと効きが倍増(セルフサーボ)する、という効果です。

ドラムブレーキ

話は完全に脱線しますがこのリーディング効果が著しい為、ドラムブレーキはディスクブレーキに比べて実は「めちゃくちゃ効くブレーキ」なのです。ブレーキの効きを指数化して比較する方法が世の中にはあるそうで、それによればドラムはディスクの3倍位(2リーディングドラムなら4~5倍)効くことになるのだそうです。巷でよく聞く「このバイクのブレーキはドラムだから、効かねえ」という悪態は間違いだ、という事になります。ドラムさんは自分が本気出したら人殺しちまう、と知っててあなたに手加減してくれているだけです。ドラムブレーキの欠点は「効かない事」ではなく「(操作者の意に反して)効きすぎる事」であり、その効きが水の進入や熱害(フェード)によって突然失われるという「安定性の無さ」にあります。

さて、時を戻しましょう。この「リーディング効果」はドラムに比べればわずかとは言え、ディスクブレーキにもあるのです。パッドの、回転するディスクが進入して来る側の端を「リーディングエッジ」、反対の端を「トレーリングエッジ」と呼びます。ブレーキを掛けると回転するディスクにやはり引っ張り込まれる形でリーディングエッジがディスクに食い込むのです。そのままではリーディングエッジばかりが激しく押し付けられてやがてパッドが斜めに、クサビ形に減ってきてしまうので、4ポットの、リーディング側のピストンだけを小径化して押す力を弱めて補正したのが「異径4ポットキャリパー」です。

4ポットディスクブレーキ

しかし、リーディング効果で効きが増す、というのは事実なので、もっと効くようにしたいのならこれを積極的に利用すれば? という発想が生まれます。それが4ポット/4枚パッドキャリパーです。パッドを4枚に分割することで、リーディングエッジが2か所から4か所に増え、リーディング効果が増すのです。つまりリーディング効果を極力抑えようとする異径4ポットキャリパーとは真逆な発想なのが4ポット/4枚パッドキャリパーなのです。(したがってこれは「もっと効くようにしたい」という開発動機があって生まれた物です。400旧車に社外キャリパーを、の場合むしろ”効きすぎ”にならない様に注意しなければいけない位なので、4枚パッドはトゥーマッチだと弊社では判断しました。)

4歩t4枚パッド

”ブレンボ4枚パッド”はDUCATI 996Rの純正キャリパーとしてデビューしました。その後もラジアルマウント化されてしばらく使い続けられます。それを見た日本メーカーが一斉に飛びついてトキコやニッシンの4枚パッドを付けたバイクがあふれるのです。そしてDUCATI 1098で新しいモノブロックキャリパーがデビューします。それは4枚パッドをやめて2枚パッドに戻したものでした。それを見て日本メーカーが一斉に4枚パッドをひっこめたのも記憶に新しいです。この”モノブロック”は同径4ポットなので、「リーディング効果重視」のコンセプトは実は継承しているのですが、4枚パッドは「ちょっとやり過ぎた」ということなのでしょうか。ただし、4枚パッドはリーディング効果を最大限活かしながらパッドのクサビ形摩耗にもある程度配慮する、というひとつの解答でもあったのですが、同径4ポット/2枚パッドはクサビ形摩耗にはあえて目をつぶった、という風に見えます。

このようにほとんど同じに見えるブレーキキャリパーにも現在までかなり劇的なコンセプトの変遷があったのです。しかしブレンボは2輪レースに関してはほぼ独占のシェアを持つ会社なので、ほんとは実績ある従来型をちまちま改良しているだけでもやっていけそうにも思えます。それがあえてこういうチャレンジングな開発姿勢を貫くところが凄いなー、と私は思います。