前回で「1G沈下量」の話まで行きました。1G沈下量を狙った数値に持って行くのには「イニシャル(プリロード)調整」を使います。これは図を用意しました。
同じばねレート2kg/mmのスプリングに、イニシャルを10mmかけた青線と、20mmかけた赤線のグラフがあります。これに同じ70kgの荷重がかかるとイニシャル10mmは25mm縮み、イニシャル20mmは15mm縮む、ということを示しています。イニシャルを変えると同じ荷重がかかった時に縮む量が、イニシャルの差の分変わるということです。この理屈で1G沈下量を調整するのです。ただし実際のバイクではレバー比だとかエアスプリング成分とかあるのでイニシャル10mm変えたら1G沈下量が10mm変わるという訳ではないです。
ここでまた前回の表を引っ張り出しましょう。
伸び切り | 0G | 空車1G | 乗車1G | |
フロント | 136.5 | 132 (4.5) | 97.5 (39) | 81 (55.5) |
リヤ | 384.5 | 384.5 (0) | 376 (8.5) | 358 (26.5) |
※カッコ内「伸び切り」からの沈下量。
リヤの1G沈下量、空車(8.5)、乗車(26.5)が少ないのでもっと大きくしたいです。GPZ400Rのノーマルショックはコイルスプリングのイニシャルが変えられるものではないので、ここでは仮に交換した社外ショックでこの数値だったら・・・として話を進めます。イニシャル調整で(26.5)を(40)にするのは簡単です。しかしそれでは「これが適切」と決めた車高、“358”の数値も変わって344.5になってしまいます。そりゃそうです。イニシャルを「車高調整装置」として使ってここまで持ち上げてたのですから。
YSSには「車高調」、全長調整機構が付いているのでこれを伸ばして数値を“358 (40)”にもっていく事ができるのです。これはやはり細かい調整ができる社外ショックの強みですね。
ここまでは1Gから「伸びる方向」の路面追従性のセッティングといえます。「縮む方向」も考えましょう。バイクが路面の凸に突っ込むとサスが縮んで凸に追従しようとしますが、縮み切って底づくとやはりこれも“ノーサス状態”な訳です。前回書いたように限界はありますが、少なくとも通常使用状態でのこれは避ける様にセッティングしなければ危ないです。
最初のグラフで説明すると・・・
乱暴ですがこの単なるばねがバイクのサスペンションだとします。乗車1Gでかかる荷重が50kg、走行中にかかる最大荷重が190kg、サスペンションの最大ストロークが80mmだと仮定します。イニシャル10mmでは190kgの荷重がかかると底づいてしまうのが分かります。そこでイニシャルを20mmに増やすと190kgでも底づかなくなります。が、仮にイニシャル10mm時の乗車1G沈下量、15mmが適切量であった場合、イニシャル20mmではこれが5mmに減ってしまい芳しくありません。
こういう場合はスプリングをばねレートが高い物に交換しなくてはなりません。グラフにすると・・・
適切な乗車1G沈下量と、底づきまでの余裕を両立することが出来ました。
実際にはダンパーロッドにタイラップを巻くなどして実走して、底づきまでの余裕(残ストローク)をチェックして判定します。逆に残ストロークがあり過ぎる、半分以下しかストロークしていないとかいう時はばねレートが低いスプリングに交換、となります。
しかしショックメーカーは「空車1G沈下量」の推奨値を示してくれているので、走る前にばねレートが適切かどうかある程度の判別はできます。例えばこの空車1G沈下量が推奨値に合っているのに、乗車1G沈下量が推奨値から外れて少なかった、とするとこれはばねレートが高すぎると判断できる、という訳です。
※今回のまとめ※
1G沈下量は、「イニシャル」で調整する。
吸収しうる最大荷重は、「ばねレート」で決める。
ノーサスの3大要因、その2「底づき」。